如月 7

 それから1年後に会社を退職した辻は、自宅の一部を改築して料理教室を始めた。
 辻がおばあさんから仕込まれたという、化学調味料を一切使わず手抜きしない、昔ながらの料理を教える料理教室はけっこう盛況だ。最近メディアにも取り上げれることも出てきて、順調に生徒数を増やしている。若い男が料理の先生で、しかも昔なつかしい家庭料理をおしえてくれる、というところに若い女性の客が飛びついてくるらしい。
 俺が密かに辻の生徒に嫉妬しているということを、こいつは気づいてるんだろうか。
「豆腐屋でおからを買っていたら、それで何をつくるんですかって、通りすがりの若い女性に聞かれて。卯の花の作り方を教えてあげてるのを豆腐屋のじいさんが聴いて、料理教室をしてあげたら、って」
 そんな偶然から生まれた提案だったけれど、辻の中にはもう少し前から、食に関わる何かをしたいとう思いがあったのだそうだ。
「だって、久野さんが俺の作った食事を美味しそうに食べてくれるから」
 情事の後、一緒に辻のふとんの中で抱き合ったまま話をしていたら、辻がそんな風に笑って俺の頬に口づけてきた。同時に布団の中で腕を伸ばし、俺の腰に手を滑らせる。
「ちょ、ッ、……まだ、触るなよ……っ」
 毎回俺が泣きだすまで丁寧すぎる愛撫を繰り返し、挿れた後も自分がイくことより俺を焦らして高めることばかり大切にするこいつのおかげで、終わった後も身体の奥に篝火が残り続けて、身体に触れられると妙に艶めいた声が出てしまう。
「久野さん、明日休みでしょう?」
 確信犯の辻は、まだローションで濡れそぼり充血したままの後孔に指を伸ばしてきた。
「お前は教室あるだろっ?」
 つぷり、と指が差し込まれると、俺の腰は勝手に期待するように動き、辻の指をもっとと誘うかのごとく後ろに突き出してしまう。
「俺は大丈夫ですよ。……ねえ、久野さん。そろそろここに引っ越してきませんか?」
 甘い声でそう囁きながら、辻は俺の中に埋め込んだ指をくるりと回した。指先が粘膜の敏感なところ擦って、上ずった声が上がってしまう。
「……んぅっ、……だ、って……、ここ、生徒さんくるし……」
「キッチンと居間にしか来ませんよ。久野さんも、仕事帰りに毎日うちに寄るの、大変でしょう?」
「……っあ、あ……っ、やだ、辻……それしたら、もう」
 辻の指先が、俺の中の弱い所を優しく押し上げる。
 さっき達したばかりなのに、辻の手が動くままに反応する俺の身体は、また前を張り詰めさせていた。たまらなくなって辻の身体に擦りつけようとすると、辻の下半身でも同じように辻のモノが反応していた。
「辻、……っ、も、俺……っ」
 辻を誘うように、自分自身で大きくなった辻のものに合わせて擦りあげると、辻が息を呑んで掠れた声で言った。
「……これが、毎日ならいいのになあ」
「辻っ」
「久野さんも、本当はそう思ってるでしょう?」
 辻もゆっくりと腰を動かし、自分のモノを俺にこすりつける。
 前に与えられるもどかしい刺激と、後ろに送り込まれる分かりやすいけれど焦れったい刺激に、俺は甘い声をあげて辻に縋りついた。
「だから、うちに来て一緒に暮らしましょう。毎日、気持ちよくしてあげます」
 だめだよ、辻。
 お前がくれる愛情も愛撫の甘すぎて、俺という人間がまるで変ってしまいそうだ。
「早く、もう、欲しいっ、辻っ……」
 辻と付き合いはじめたころは、でかすぎるこいつのソレを迎え入れるのは気持ちがいいけど同じくらい苦しくてきつかったのに、今はきつさよりも快楽のほうがずっと大きい。
 辻に出会う前の俺は、もうとっくにどこかに行ってしまって、多喜さんに片思いしていたことなんて遠い夢のようだ。
「今、何考えてたんですか?」
 不意に低くなった辻の声が耳に直接囁きかける。
 どうしてわかるんだろう。
「……なに、も」
「うそはだめですよ。お仕置きしないとな」
 楽しそうに辻はそう言って、俺の中で指を大きくかき回した。
「辻……っ」
 たぶん今夜はずっとおあずけされて、眠るのは明け方になるだろう。
 そんな甘い予感を感じながら、俺は辻に縋りついて辻が望むままに声を上げ続けた。

Fin