逆らえない恋人 2

レンタルショップに入ると、スバルくんはまっすぐに奥まったコーナーに入っていく。人気の少ないそこは年齢指定のあるコーナーで、スバルくんは恥ずかしがる風もなく、棚の間を歩いてお目当ての棚へと向かう。俺は少し遅れてスバルくんの後に続いた。
ひと目は気になる。
同じこの一角にいる人は、誰もが同じ目的で物色しに着ているわけだけれど、俺たちは少しわけが違う。
このコーナーの一番奥に少しだけ、ゲイもののビデオがある。
スバルくんはその棚の前に立つと、振り返って俺を手招きした。
「ねえ陽史さん、今日はどれがいい?」
まるっきりいつものトーンで、それはカフェで「今日は何を飲む?」というのと同じ調子で。
スバルくんは俺に問いかけた。
答えられるはずもない俺は、スバルくんの後ろで視線を落とし、棚を極力見ないようにする。
スバルくんが今日履いているスニーカーは、限定色のレアもの。そして俺が履いているのは色違いの同じ形だ。スバルくんに今年の春、贈られたもの。
「これはこのあいだ見たよね。こっちは? これはまだ見てないような気がするなあ」
スバルくんは手を伸ばして、俺の指に触れた。そのまま指同士を絡めて軽く引き寄せる。抵抗できない俺は一歩進み、スバルくんの隣に並んだ。
「見て、この男優、陽史さんに似てない?」
スバルくんがうれしそうに笑って俺の耳元にささやいた。
スバルくんが手にしたパッケージをちらりと見ると、確かに俺と似た髪型の男が中央に写っていた。
「……それ、って」
「緊縛モノだって。面白そう。……ねえ、今日はこれでいいよね?」
スバルくんが俺の指をきゅっと握って、いたって普通の調子で問いかける。
「………」
俺は黙ったままうなずき、スバルくんは俺の手を引いてそのゲイビデオを借りに行った。
白昼のレンタルショップの中、手を繋いで歩く男2人。何人かの客が俺たちを見て目を丸くし、何人かはさっと目をそらし、何人かは二度見した。
俺はずっと視線を床に落としたまま、スバルくんの半歩後ろを歩いた。

スバルくんは実家が近いにも関わらず、マンションを借りて一人暮らししている。そのマンションだって、大学生が借りるにしては広すぎる部屋だった。
南向きの14畳のリビングダイニングはいつもスッキリ片付けられていて、余計なものがほとんどない。
広いソファにゆったりと座ったスバルくんに後ろから抱きしめられるようにして座り、俺たちは目の前の大画面で繰り広げられる痴態を鑑賞していた。
麻縄で縛り上げられた色の白い男は切ない声を上げながら体を揺らし、体内でうごめく男性器をかたどった玩具に苛まれ続けていた。スバルくんは俺を抱っこしたまま、AVを鑑賞するのを好む。最初の頃はごく普通のハリウッド映画だったのに、それがいつの間にか年齢指定のあるものに変わって、今では2人で見るのはAVばかりだ。
生々しい画面を見ていられなくて視線を落とせば、俺の腹の前で組まれたスバルくんの長い指が見える。いつもきれいに整えられている爪は、俺を傷つけないため。ふいに、スバルくんの指が俺の体内をかき回す感覚を思い出して、俺はわずかに身じろぎした。触られてもいないのに、肛門のあたりがきゅっとうずいて、勝手に締め付ける。
そんな俺の動きに気づいたのか、後ろでスバルくんがふっと笑った。
「……想像、しちゃいました?」
唇を俺の耳に付けるようにして、低く艶のある声を流し込まれる。
「……っ」
耳が弱い俺は首をすくめ、背中を丸めて反射的に逃れようとした。
「だめだよ、洋史さん。逃がさない」
スバルくんがぎゅっと俺を抱く腕に力をこめる。そして外耳の輪郭を確かめるようにぐるりと舌で辿った。
「……あ、……っふ」
耳を舐められただけなのに、力が抜けていく。スバルくんは耳の中に舌を差し込み、ぴちゃぴちゃと音を立ててその小さな穴を舐めた。
「んん、んッ……」
気付けば完全に脱力した身体をスバルくんに預け、もうどうにでもしてくださいというように俺は彼に耳を差し出し、反対側の耳と頬をスバルくんの腕にこすりつけていた。
「ほんと、陽史さん耳弱いよな。気持ちよさそう。かわいい」
スバルくんが低く笑い、耳たぶを口に含んで舌でねぶる。

Next