fortune kiss 2

 従兄弟の聖一郎は諒よりも二つ年上で、諒が誰よりも尊敬し、頼り、愛してきた相手だ。
 口数が少なく、いつも冷静で、しかしその胸の内には熱い情熱を秘めいていた。
 その情熱を語ってくれた夜。
 諒は決めたのだ。
 聖一郎と、一緒に夢を追おうと。
「服を作りたいんだ。自分でデザインした服を、色んな人に着て貰いたい」
 近所に住む従兄弟とは物心ついた頃から親しく、しょっちゅう泊まりに行っていた。聖一郎は兄弟のいない諒にとって、兄のような存在で何でも相談し、甘え、慕っていた。
 聖一郎がそんな話をしてくれたのは小学校卒業を間近に控えた冬。卒業文集に載せる「将来の夢」に何を書けばいいか迷い、泊まりに行った夜に同じベッドの中で丸くなりながら話した時だった。
「俺はデザイナーになる。……そしたら、諒、それを着ない?」
 聖一郎が優しい眼差しで提案し、ぴったりとくっついて毛布を被った諒の頬を撫でた事がまるで昨日の様にハッキリと思い出せる。
 単純にも諒はそれで、聖一郎の作る服を着るモデルになろうと決めたのだった。
 しかし、諒の身長は170センチで止まってしまい、全身のバランスは良かったが、これではとてもモデルにはなれないと悟ったのは高校生になった頃。 中学時代はぐんぐん伸びた身長は、15歳でぴたりと成長を止めてしまった。おまけに小作りな顔立ちが地味な印象を人に与えるのは、元々持っていた性格からか。人前に立つ仕事をするにしては華やかさが足りないという事に気づいたのも高校生の時。
 聖一郎の弟で、諒より二つ年下の潤一郎は当時、中学生にして180センチ近い長身を持ち、誰もが振り返るような甘いマスクとオーラを放っていた。 従兄弟の家に行き、潤一郎を見る度に「聖一郎の作る服を着るのは、こういう奴じゃないといけない」と思い知り、将来設計を変更することを余儀なくされた。
 何でも良かった。
 聖一郎の傍にいられれば。
 憧れの、大好きな聖一郎の役に立ちたかった。
 聖一郎が服飾の専門学校を卒業するのと入れ違いに、諒は同じ学校に入学した。
 自分にはモデルになれるような華やかさがない。聖一郎の作った服を売って歩けるような営業センスも、多分、無い。ただ指先だけは器用だったので、パタンナーになろうと思った。聖一郎が考えた服を、一番にカタチにする仕事。これなら聖一郎の傍でずっと働ける。
 今考えると無謀だったと思う。
 結果的に会社というシステムに組み込まれるのを嫌った聖一郎は、せっかく就職した服飾メーカーを一年もしないうちに退社し、独自のブランドを立ち上げる事になったが、お互い別々の会社に就職してしまう可能性も充分あったわけだ。
 聖一郎に「一緒にブランドを作らないか?」と持ちかけられた時は天にものぼる心地だった。
 その時、気づいたのだ。
 幼いころから抱えている想いの正体。
 従兄弟で、幼馴染で、一生をかけようと誓った仕事のパートナーで……同性で。だから、この想いは口にする事は出来ない。
 大好きな人を、困らせる事は出来ない。
 きっとこれから有名になり、世界を股にかけて活躍するデザイナーの経歴に傷を付ける事は出来ない。同性愛は多い業界だとは聞いていたが、だからといって聖一郎が受け入れてくれるわけが無い。何より、拒絶されて、今の関係を失うのが怖い。
 聖一郎は、小さな時からずっと諒の全てだった。諒の中で絶対の存在である聖一郎に、気持ち悪いものを見るような眼で見られるくらいなら……死んだほうがましだ。
 無くしたくない。
 聖一郎の隣、一緒に夢を追うパートナー。世界へ戦いに出る仲間として諒を選んでくれた。
 聖一郎を失うのが怖い。
 それなら……
 気づいた想いには、すぐに蓋をした。

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