アンバー 40

「……それにしても、やっぱりこういう展開になるわけ?」
 氷河はベッドの上で桜木に組み敷かれながら、冷静に聞いた。
 すると桜木は満面の笑みで答える。
「当然でしょう」
「……で、なんで俺が下なの?」
 氷河はあくまで九州男児。桜木のことは好きだが、自分が征服されようとしているこの状況に納得がいかない。
「え……だって、そのほうが自然でしょう?」
 桜木は当たり前のように氷河の首筋に唇を這わせる。思わず氷河は頭を振って桜木から逃げようとした。
「ちょっ、待って、待てって! この体勢は、アレか? やっぱり俺がされるほうなのかよ?!」
「そうでしょうね」
「そうでしょうねって……、桜木……。それは、かなり抵抗があるんだけどっ!」
 見上げると桜木は困ったように眉を寄せる。
「氷河さん。男同士で愛を確かめ合うわけですよ。どっちかが、どっちかになるわけです。仕方ないじゃないですか」
「そうじゃなくって、なんで最初かっら決まってんだよ!」
 それでも必死で抗議すると、桜木が氷河の両頬を手の平で包み、とびきり甘い微笑みを浮かべた。
「氷河さん、ちょっと黙って……」
 その笑顔に見とれ、素直に口をつぐんだ氷河の唇に、桜木は本当にそっと口付けた。
 一瞬、それがキスだとは気づかないくらい。
 その、優しく、暖かく、柔らかく甘い雰囲気に夢見ごこちになっている氷河の瞳をじっと見つめて桜木が問い掛ける。
「どっちになっても、愛し合う事に変わりは無いわけです……俺は、全身で氷河さんを愛したい。……氷河さんは……?」
 世界を薔薇色に感じつつ、氷河はうっとりと答えた。
「……うん……俺も……」
 その氷河の返事に、桜木は心底幸せそうに微笑み、再度優しく口付ける。そしてそのまま、氷河の体を撫で上げた。
「……っ、どぅっ、だ、だっ、だぁーーっ!」
 その感触に一気に我に返った氷河が思わず意味不明の叫び声を上げると、桜木がキスを止めて、不愉快そうに氷河を見た。
「なんですか、今のは」
「だ、だっ、駄目だって!」
「ここまで来て、何をうろたえてるんです」
 それはそうなんだけど……
「だっ、だけどっ、いくらなんでも早すぎないかっ? こういう事をするのはさぁっ!」
 パニックになっている頭を必死で働かせて氷河はなんとかこれから起こる事態を避けようとした。 
 俺は、馬鹿か! キスごときでボーッとなって、あやうくとんでもない事になるところだったじゃないかっ!
 ぐいぐいと両手で桜木の胸を押し、そこから抜け出そうとすると、ふいに桜木が氷河の両腕を掴んで瞳を覗き込んできた。
 あまりの至近距離に、一旦冷静になった氷河は息が詰まる。
「……もしかして、初めてですか?」
 桜木は氷河の頬を両手で挟み、じっと見つめながら聞いた。
 氷河は理解の追いつかない展開にパニックになりながらも、桜木の質問にカッと顔を赤らめた。顔を逸らせたいが、桜木が押さえているためそう出来ず、仕方なく瞳を伏せた。
「……わ、悪いかよ」
 ぶっきらぼうに答える。
 高校時代、彼女はいたがキス止まりで、大学に入ったら入ったで部活に明け暮れ、恋をするような余裕は無かった。
 すると桜木は
「目を逸らさないで下さいよ」
 と優しい口調で言い、額にキスを落とした。
「ねぇ、本当に初めてですか? 男も女も?」
 桜木のキスに一瞬うっとりした自分をなぎ倒し、氷河は叫ぶ。
「うるせぇな! そうだよ悪いかよ! 今まで誰ともセックスしたことねえよ!」
 あまりの恥ずかしさと情けなさで、不覚にも涙ぐんでしまう。今度こそ桜木を振り切ってそこから這い出そうとした時、氷河は桜木に柔らかく抱き締められた。
「……やった、すげー嬉しい。ってことは、俺が正真正銘最初の人なんだ……」
「ま、まぁそうなるな」
 展開について行けず、とりあえず同意すると桜木はうっとりするような微笑みを浮かべて氷河を見つめた。
「俺の愛撫しか、俺の愛し方しか知らないんですね」
「いや、まだ知らないけどな」
 思わずそう口走り桜木を見ると、桜木は満面の笑みで答える。
「これから、たっぷり教えてあげます……。もう いらないってくらい……」
 言葉を理解する前に唇をふさがれ、今度は深い口付けを与えられた。
 その感覚に迷い込むように、氷河はキスに夢中になっていった。

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