PINK 1

俺のことなんて、全然見ていないくせに。
 俺のことなんてどうでもいいくせに。

 なのに、俺の気持ちだけはしっかり知ってやがる。

 決算の後の部署全体の飲み会は、いつもどおり終電間際まで。
 大急ぎで会計を済ませ、終電の時間が迫っている奴らは挨拶もそこそこに駅へ走っていく。
 もちろん、俺も。
 そのつもりだった。
 松見が俺の腕を掴むまでは。
 思いがけず捕まれた腕に振り返ると、松見がいつもの緩い笑みを浮かべて俺を見ていた。
「帰るの?」

 その一言で、決まってしまう。
 聞くという事は、帰らなくても言いという事。
 松見と一緒に過ごせるという事。
 黙って松見を見ている俺に、目で付いて来いと合図して先に立って繁華街を抜けていく。
 松見の家は、駅の反対側にある1LDKのマンションだ。

 松見は中途入社で、でも俺と歳が同じだった事もあってすぐ仲良くなった。いつもつるんで、昼も、時には夜も一緒に食事をしに行ったり、飲みに行ったりした。
 飲んだ後、どうしてそういう事になったのか、俺は記憶が定かでは無いけれど。
 気付いたら松見の家にいて、二人して裸で重なるようにして朝を迎えていた。
 尻に鈍く残る痛みと、違和感。
 すぐに分かった。
 学生時代に、そういう遊びをした事が何度かあって、なぜか俺はいつもネコだった。女っぽいわけでもないけれど、体毛も少なくて髭も目立たない顔つきがそうしたいと思わせるんだろう。
 重たい体で起き上がり、床の上にちらばっている服を探そうとすると、松見が俺の腰に触れた。
「内藤って、結構慣れてるんだね」
 振り返って見下ろした松見は、朝日に眩しそうに瞳を眇め、いつものように緩い笑みを浮かべて俺を見ていた。
「スゴイ、良かった。ねえ、またヤりたいな」
 全然悪意の無い口調で松見はそう言った。
 松見の家の洗面台の上のコップの中には、青とピンクの、いかにもな歯ブラシが二本並んでいる。
 そのピンクの相手を俺は見たことは無いけれど、時折松見の部屋に甘い香りが漂っていたり、男の一人暮らしには不釣合いな芳香剤だったり、小さな黄色い花が生けてある花瓶だったりといったものが置かれているのを見ると、どこか寒々とした気持ちになった。

 松見は気まぐれに俺を抱く。
 松見の好きな体位は正常位で、男同士でその体位を取るためには俺は苦しいくらいに腰を深く折り曲げなくてはいけない。
 学生時代にこの体位はあまり好きではなかったけれど、でも松見とするこれは、嫌いじゃなかった。
 

「……んっ、……は、ぁ…」
 俺の前を丁寧に扱く松見の背中に縋りつく。
 俺の中を熱く埋め尽くすそれは、中でどくりどくりと脈打って、松見と繋がっている事を深く知らしめた。
 俺の脚を肩に掛けて、松見は丁寧に俺のペニスを愛撫し、松見の大きさに慣れるのを待つ。腰の下には、いつのまにかこの体勢の苦痛を思いやるかのように枕が押し込まれていて、ようやく松見の重積に慣れてきた俺は長く息を吐いて力を抜く事が出来るようになる。
 俺の前をゆっくりと扱いていた松見は、俺の頬にキスをひとつ落とした。
 とても優しい、まるで恋人同士のようなそれ。
「……内藤、もう、動いてもいいね…? 内藤の中、凄く熱くてビクビクして……すごいよ、俺のこと誘ってる」
「……言う、な…」
 松見の言葉に顔を背けると、こっちを向けと言わんばかりにキスを仕掛けてくる。
 すっかり松見に慣れた、そして男同士でするこの行為に慣れた体が、もっと松見の刺激を欲しがって、中にいる松見を締め付けた。
 小さな呻き声を上げ、それから松見はゆっくりと体を引いて奥へ打ちつける。
 松見が出て行く時の、まるで体の中から全部を持っていかれそうな感覚に、俺は必至に松見に抱きつき、抑えきれない甘い声を上げた。
 打ち込まれる一瞬、松見の先端だかカリだかが、いいところを掠っていく。
 腰がグズグズに蕩けてしまいそうな、もどかしい快楽がもっと欲しくて、俺は喉を反らして松見の名前を呼んだ。
 松見を欲しがって、腰が勝手に踊る。
 また、抜けて打ち込む松見を見上げる。
 端正な顔が歪み、汗が俺の胸の上に落ちてくる。
 松見の背中から手を放して、先端からタラタラと液体を垂れ流す自分自身を握った。後ろには相当な体積があるものが出たり入ったりしている。
 全部がごちゃ混ぜになりそうな快楽の中にいて、どうしようもなく色気のある松見を見上げて、俺の脳の一部は違う事を考えている。
 松見は、あのピンクの相手も、こういう風に抱くんだろうか。
 こんな顔を見せるんだろうか。

Next