東京タワーへ行こう 3

そんな風にしてウィークデイは飛ぶように過ぎ去った。
研修だった、という哲平は今夜は本社の人たちと飲み会があるらしかった。
土曜の予定は空けておけよ、と一応念を押す。
一日、東京を案内してまわるつもりだった。それを告げると哲平は顔を輝かせ、弾む足取り
で出社した。
残業につぐ残業を重ね、家にまで持って帰って仕事をしたおかげで、いい感じでめどが
ついて来ていた。
これなら、今日はちょっと残業すれば家に帰れる。
飲み会の終わった哲平が帰宅する時間には間に合うだろう。
せめて今夜くらいは家でゆっくりしたかったが問題が起こった。
部下がつまらないミスをして顧客を怒らせてしまったのだ。
しかも、今はまだどうという事の無い顧客だったが、いずれ大口の契約を結べそうな畑を持っていて、
今後の展開も大きく期待していたところだった。
報告を聞いた俺はあわてて顧客の所へ飛んで行き、頭を下げたが、向こうの怒りは一向
に収まらなかった。
結局金曜だけでは事態は解決せず「明日は土曜だが、話を聞いてやる。明日出直して来い」
という先方の意向を絶望的な気分で聞いていた。

かなり葛藤したが、断るなんていう選択肢があるはずも無く。
明るく爽やか、それでも申し訳なさを滲ませながら
「お忙しいところ、大変申し訳ありません。お時間を頂戴して、ありがとうございます。ぜひ土曜日に伺わせて下さい」
と平体低頭に対応し、すぐさま土曜の手土産を用意して、独りになったところで、重いため息が漏れた。
哲平に、土曜あけておけと言ったのは俺なのだ。
ただ、会話の流れから、明日また行って謝れば、無事一件落着しそうだと思った。
仕方ない、明日は哲平に我慢してもらおう。
なに、東京は消えたりしないのだから。
そう結論付けてため息をつき、また仕事に取り掛かった。

一時間残業して家に帰ると、哲平がキッチンでフライパンを握っていた。
「おかえり、早かったな」
そして、にこっと笑う。
「あれ、飲み会は?」
驚いて問うと哲平は軽く肩をすくめた。
「オヤジばっかでかわいい女の子がいなかったから逃げてきた」
「え、大丈夫なのか?」
「平気平気。それより、メシ作った。一緒に食べよう」
その笑顔に胸がちくりと痛む。
明日は休みだというのに、一人にさせてしまう。
「何作ったんだ?」
手元を覗き込むと牡蠣ソースのいい香りがする。
「砂肝とニンニクの芽炒め。これ、俺の自信作」
「へぇ」
普通の家庭料理ではなかなかお目にかかれないメニューだ。
「それからアスパラを茹でて、魚を焼いた。魚、食えるよな」
哲平が炒め物を皿に盛り、さっとフライパンを洗いながら振り返る。
「あぁ、なんでも食える。なんだかすごい豪華じゃないか?」
しかも、テーブルに並んだ料理はとてもおいしそうだ。
「俺、居酒屋の厨房でバイトしてたから。実は得意なんだ」
明日の事がなければ、もっと大喜び出来たのに。
ご飯をよそう哲平を見ながら、話を切り出すタイミングを計っていた。

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