昔、録音したMDの山をみつけた。
ラベルが書いていないので、何がなんだか分からない。仕方がないので、暇にまかせて片っ端から聞いてみる事にした。
パソコンに向かい、溜まりに溜まったメールの返信をしながら、傍らのコンポから流れてくる音楽に耳を澄ます。
もうすっかり忘れていた、懐かしい音楽が次々と流れてくる。
……これは、大学の卒コンで、みんなでカラオケした奴だ。
……これは、バイト先でよくかかってた。
これ、あの時大好きだったんだよな……
洋楽からJ-POP、果てはクラシックからヒーリングまで、本当によく集めたものだ。
最近は仕事に追われ、自宅で音楽を聞くこともなくなっていた。
懐かしさに頬が緩むのを感じながら、聞き終わったMDに簡単なラベルを貼り付けていく。
そうしながら新しいMDをセットし、曲が流れ出したところで手が止まった。
……これは。
静かな、ゆったりとしたメロディー。
甘いヴォーカル。
……あぁ。
瞳を閉じ、体の奥かわ湧き上がる震えに吐息を漏らす。
……忘れてない。忘れてないよ。
あぁ、こんなにはっきり思い出せるというのに――!
深夜のクラブ、ステージの上の君。
このヴォーカルにも負けず劣らずの、甘い掠れた声で歌っていた。
「絶対、来てよ。すげぇ自信ある。あんたに聞いてもらいたいんだ」
大学時代。大教室の一番後ろの席で渡されたフライヤー。
記された時間を見て眉をひそめた俺に、君は真剣な眼差しで語った。
「俺の歌、聴いたら惚れるよ?」
まったく。
君の言うとおりだった。
深夜2時、大都会の地下に響き渡った歌声は、俺の心をがっちりと掴んでしまった。
歌い終わった君は拍手の中、俺を見つけてにっこり笑った。
その後、一緒にビールを飲みながら、
「あれ、誰の歌?」
と聞いた俺に流し目を寄越した。
「……元々は外人の歌。気に入った?」
「うん、すごく良い曲だね。CD、持ってる?」
「あるけど、教えない」
生意気な口調に少しムッとした俺ににやりと笑いかける。
「聞きたいなら、俺がいくらでも歌ってあげるよ。だから、俺のナマ歌きけよ」
本当に、何度でも歌ってくれた。
聞きたいとせがんだ回数分、歌ってくれた。
歌っている間中、俺から視線を外さなかった。
君の部屋で夜中に歌ってもらいながら、俺だけのための歌声だと思ったら、体中が震えたよ。
あれから、三年。
たまたまラジオから流れた曲を、とっさにMDに落とした。
そのまましまいこんで忘れていた。
……いいよね。
だって君は、もう俺だけのためには歌ってくれないから。
メロディーとともに強烈に蘇った想いに、リピートボタンを押していた。
Fin