非常階段

授業をサボったのはなんとなく。
昨日ゲームに熱中しすぎて思いっきり睡眠不足だったのと、科学の野田のしゃべりが嫌いだったから。
あいつのダミ声を一時間も聞くのなんて、耐えられない。しかも、窓の外は台風一過の後のあおぞら。
……一時間くらい、いいよな。普段はめちゃくちゃ真面目なんだから。
自分に言い訳をして、昼休みが終わる前に教室を抜け出した。
行き先は西の非常階段。午後の日差しの当たるところ。

午後の授業の開始を知らせるチャイムが鳴るのを確認してから、ポケットからマルメンライトを取り出し火をつける。
ぼんやりと眺める中庭に降り注ぐ、9月の穏やかな日差し。
この薄い壁の向こうでは、数百人の生徒が、あくびを堪えながらつまらない授業を受けている。それを尻目に、俺は日向ぼっこしながら一人、紫煙をくゆらせるわけだ。
……平和だなぁ
そんなことを考えていると、非常階段を誰かが上ってくる足音がした。
……っ、ヤバイっ!
ぼんやりしていたせいで気づくのが遅れ、慌てて煙草を踏み消して立ち上がった時には足音の主は既に姿を現していた。
「何やってるんだ、小野」
「……先生」
美丈夫の英語教師がビックリしたように俺を見上げていた。
気まずく目をそらし言い訳を考えていると、先生はくすりと笑った。
「小野みたいな真面目な生徒でもサボるのか」
そして、俺が踏み消した吸殻を見つけ、そっと拾い上げた。
「……学校ではやめとけよ」
思いもかけない態度に戸惑い、思わず言ってしまう。
「二十歳まではやめとめよ、の間違いじゃないの?」
すると英語教師はシニカルな微笑みを浮かべた。
「分かってるじゃないか」
俺はなんとも言えず、立ちつくす。
すると彼は、さっきまで俺が座っていたあたりにペタンと腰を下ろし、俺を見上げた。
「なにやってんだ、座れよ」
「……はぁ?」
訳が分からず、俺は英語教師のつむじを見下ろした。
「……教室に帰れ、とか言わないの?」
「いや、帰るな」
「え??」
ちょっとしたパニックに陥っていると、彼はこちらを見上げ、にやりと笑って俺の手を掴んだ。
「ちょっとおしゃべりしようぜ。俺も5限は授業だったんだけど、自習にしてきちゃったんだ。共犯だ」
俺は彼に掴まれた手を振り解けず、促されるままに隣に座り込んだ。
非常階段を、秋風が走り抜けた。

Fin