祈り

君の見舞いに行った。
みんなより、だいぶ遅れて行ったのは、弱った君を見たくないから。
本当は行かないつもりだったけど、これからどうなるのかを聞いて、いても立ってもいられず、学校が終わるとバスに飛び乗った。
久しぶりに会う病床の君は、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。
口調は今までに無く元気だから、腕から伸びたチューブとこけた頬がひどく不自然な気がした。
下らない世間話をしながら、僕はなかなか君の傍から離れられなかった。
やがて夕暮れがカーテンを赤く染め、遠くから小学校のチャイムが聞こえた。
「面会時間は終わりですよ」と、看護婦さんに急かされて病室を出た。
振り返ると、
君は全部分かっている瞳をして、
消えてしまいそうな微笑みを見せた。
「明日も来るよ」
胸が締め付けられたまま廊下に出たけれど、そのまま帰る気になれず、僕は階段を上り屋上に出た。
フェンスで囲まれた狭い箱庭は、ごみごみした街の中、ぽつんと一箇所だけ高い。
君の病室の真上あたりに立ち、両手を祈るように握り締めた。
このコンクリートの真下には、君が一人で闘っている。
空はこんなに近いようで果てしなく遠い。
神様。
神様……
何か、ものすごく伝えたい衝動はあるのに、それは形を成さなくて。
世界と隔てるフェンスを、ただ握り締めた。

Fin