process  1

 相変らず、容赦無い。

 腰に痛みを抱えて起き上がると、傍らに寝ていたはずの弘樹はすでにいなくて……分かってたけど。
 俺はやっぱり落胆を隠せなかった。
 昨夜、散々攻められ、声を上げ続けたせいで呼吸をするだけで喉の奥が痛む。
 なんとか起きることはできそうだけれど、あんまりにも腰がだるくて、これではとても仕事は出来ないと、溜息を漏らした。
 どれだけ、嫌だ、って言っても全然聞いてくれないんだから。
 あの大男の性欲、これだけ受け止めて、良く俺、保ってるよな。
 
 そう思うともの凄くイライラしてきてしまって、シーツからかろうじて上半身だけの力で抜け出すと、壁に縋るようにして何とか床に立つ。
 気を抜くとその場に座り込んでしまいそうだったから、ゆっくり、できるだけゆっくり呼吸して。
 そろそろと玄関の傍の電話のところまで進んだ。
 寝ている間に電話が掛かってきてそれで起こされるのが嫌だというのが弘樹の言い分だけど、もうそんなの聞いていられない。
 まともに動けるようになったら、絶対に電話をベッドサイドまで引いてやる。
 もしくは、今度こそ携帯をベッドの傍に置いておこう。

 何度目になるか分からない誓いを立てながら、受話器を取り上げて短縮の1を押した。
 三回のコールで繋がって、すぐに明るい有紀サンの声がして。
「はーい、ボニータでーすっ」
 寝不足、かつ体調サイアクの俺には、いつもなら聞くだけでニヤけてしまうその声も、あんまり今はありがたくない。
「……ツカサです。あの、今日休みます…」
 喉をついて出た声は、自分でもうんざりするくらいのガラガラだった。
 多分、有紀サンもそれで全部分かったらしくて。
「あらら、『また』? もー、オーナーったらしょうがないわねぇ。いいわよぉ、ゆっくり休んでで。どうせ暇なんだから」
「……どうも、スミマセン。毎回毎回」
 全てを察したような有紀サンの口調に、顔をあわせているわけでもないのに、それでも俺は顔が真っ赤になる。
 しどろもどろに謝って電話を切ると、俺はそのままへなへなと床の上に座りこんでしまった。
 ……ダメ。
 腰、完全に立たないよ。
 フローリングに仰向けになって目を閉じる。
 遠くに潮騒の音。
 明るい日差しが部屋の中に差し込んでいて、だらしなく伸ばした足が日に晒され、とっても暖かかった。

 わりと年中賑わっている海辺のこの町は観光で成り立っていて、日差しは日本とは思えないくらいに明るい。
 ありがちだけど、家出少年だった俺を拾った弘樹は海岸沿いに流行らない土産物屋を経営していて、俺はそこのバイトという事になっている。
 ……もっとも、客なんてあんまり来ないから、いてもいなくてもいいバイトだけど。
 多分、弘樹は俺が他のところでバイトするのが嫌なんだ。
 それは分かってる。
 ……独占欲、強いヒトだから。
 
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