弘樹がここ数日に渡って、俺がバイトに出るのにも支障が出るくらいに夜、激しく攻め立てるのは、多分、店の前でサーファーの二人連れにナンパされてるのを見かけたから。
実はナンパなんて珍しい事じゃなくて。でも弘樹が現場を見たのはあれが初めてだった。
あんなの、あしらうのは別に苦じゃないのに。
いつのまには弘樹は俺の後ろに立っていて、いつもみたく無視して通り過ぎようとしていた俺の腕を捕まえた。まずいかにも夏だけサーファーの軽そうなそいつらに地を這うような声で脅しをかけ、それから俺の顎を掴んで……
軽く、頬を張られた。
「何で俺を殴るんだよっ」
あんまりな展開に弘樹を睨み上げる。
口の中は切れなかったから、弘樹が手加減してくれたのだという事は分かったけど、それでも凄く腹が立って。
弘樹はタテもヨコもでかくて、俺達の身長差は20センチは多分ある。
体重差はそれ以上。
弘樹は無言で俺を抱え上げ、店の倉庫に土産物の入った段ボールよろしく運び込み、砂でざらつく床に、文字通り……落とした。
「いってーっ!!」
尻をしたたかに打ちつけ、呻く俺の髪を掴んで顔を上げさせる。
無精髭が目立つ、弘樹の顔が目前にあった。
「あんなのに色目使ってんじゃねぇよ」
ドスの聞いた声は、弘樹の口からは初めて聞くもので……
正直、背中がぞくりとしたが、それを悟られないように、俺は薄暗がりの中で弘樹を睨み上げた。
「色目なんて使ってねぇよ! あいつらが勝手に……っ…ぅっ」
言いかけた俺の頬を弘樹が強い力で掴んだ。
痛い。
声も出ない。
「ウソこけ、このクソガキ。お前が色気振りまいてるから、あんなのが寄ってくるんだろうが」
「……ぅう…っ」
抑えられた頬が痛くて、離せ、と弘樹の手に爪を立てたが、頑丈すぎる奴はそんな事じゃびくともしなくて。
「いいか、今度あんなの相手にしてみろよ。……放り出すぞ」
だから、俺のせいじゃない。
あっちが勝手に声かけてきただけだって、言ってんのに。
弘樹の手があんまりにも痛くて、それから逃げようと頭を振っていると、ようやくヤツの手が緩んだから。
勢いに任せて頭を振り、弘樹の手から完全に逃げて、あいつに向かって怒鳴りつけた。
「だから、俺に責任はねぇよっ! わからずやっ!!」
それから、意味の成さない言い合いになって、どうやら怒り心頭に達したらしい弘樹に殆ど無理矢理倉庫でヤラれて、俺は半分意識を飛ばして。
目覚めたら弘樹の部屋で一人寝ていた。
後からようやく、そういえばあの時店に有紀サンがいたって事を思い出したのだった。
多分、絶対ソノ時の声とか聞こえてただろうから。
……前から怪しいとは思われてただろうけど、あれで完全にバレただろうな。
自分の雇い主とバイト仲間がホモで、しかもデキてるなんて。
どう思ったんだろう。
……と、少しは心配していたが、予想に反して有紀サンは平然と受け止めていた。
だから、こうして連日に渡ってバイトを休み続けていることに対しても、さっきみたいなやり取りで済んでしまうわけで。
……ありがたいけど。それってどうなのよ。
寝っころがったまま、壁にかかるカレンダーをぼんやり眺める。
バイトを休み始めて一週間がたっていた。
未だに弘樹は俺に対して怒っているようで、家に帰ってきても余計な口は利かない。
ただ、夜、強引に俺を抱くだけ。
どんなに泣いても、わめいても許してくれない。
アイツに力任せに抱かれて、最後はいつも殆ど気を失っているから……
これって殆ど強姦じゃん。
……いくら、居候させてもらってるからって、一週間も強姦されてるっぽいのってどうんだよ。
大きく溜息を吐き出す。
腰は、まだダルイままだった。
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