process  3

 日差しの暖かさと、潮騒の音に誘われて俺はそのまま床の上で寝てしまったらしい。
 何かが頬にぴたぴたと辺り、それが冷たくて目を覚ますと、有紀サンが俺の傍に座り込んで大きな目で俺を覗き込んでいた。

「……う、うわっ、ゆ、有紀サンっっ!!」
 
 焦って起き上がろうとしたのは、しゃがみ込んでいる有紀サンのセクシーでレーシーなパンティがモロ視線の先にあったから。
 弘樹に開発されただけであって、元々根っからのホモじゃない俺にはそれは凄く刺激的で、でも散々痛めつけられた体は上半身を半分ほど起そうとしたところで力尽き、また床の上に倒れこんだ。

「ちょっと、ツカサくん、大丈夫? その調子じゃ、ご飯も食べられないと思ってお見舞いに来たのよ~」

 有紀サンはピンクのグロスも艶やかな唇で色っぽくそう言って、手にしていたコーラの缶を俺の頬に押し付けた。
 あ、あれで目を覚ましたんだ。
 意識して相変らずしゃがんだままの有紀さんのスカートの中は見ないようにしつつ、缶を受け取る。
 なんだか美味しそうな油の匂いに鼻をくんくんさせると、有紀サンはそれに気付いて、傍らにあった紙袋を俺の腹の上に置いた。
「差し入れ」
 赤いMのマークのそのファーストフードを有難く受け取って、なんとか体を起こす。ソファに座る体力は無かったから、床に座ったままソファに凭れて紙袋を開いた。
 有紀サンも俺の隣に座り込んでハンバーガーを頬張る。
 二人して投げ出した足の、爪先の辺りに、正午を少し過ぎた太陽光線が掠めた。

 ……このヒト、足長いなぁ。
 それに、足首とかキュッとしててすげぇ綺麗…

 そんな事を考えながらポテトを摘んでいたら、有紀さんがベランダの向こうに広がる青空を見ながらのーんびりした声で言った。

「ここ最近ねぇ、ツカサくんがバイト出られないくらいに体調悪いのは、それはオーナーが悪いと思うのよ」

 ちなみにオーナーとは弘樹の事だけど。
 のんびりした口調とは裏腹な、その会話の真意の生々しさに、俺はどきりとして有紀サンの横顔を見遣った。
 有紀さんは、パクリとハンバーガーを齧り、噛み切れなかったらしいレタスだけを少しずつ口に含んでいく。
 
「……あー…………ま、確かに、そうなんだけどさぁ」
 
 食事途中の有紀さんの言葉が途切れて、俺は曖昧に返事をした。
 確かに、俺の体力も考えずに貪るアイツが悪い事には変わりない……んだけど。

「…ん。でもねぇ、ツカサくんも、ちょーっと、無防備すぎるかな?」
「え?」

 有紀サンはハンバーガーを飲み込んで、ドリンクのストローを噛んだ。
 そのまま上目に俺を見る。

 ……その視線、ちょっとエッチだよ、有紀サン。

「アタシ、たまたま聞いちゃったんだけどね。バイト上がりにバーに飲みにいったら、ホラ、ツカサくんをナンパしてオーナーに叱られていた子達、いたでしょ? あの子達がたまたま、飲んでて」

 え?
 でも、あいつらには弘樹が釘を刺していて……

「あの子達、よーっぽど、オーナーに叱られたのが腹に立ってたみたいだったのね。ツカサくんをさらって、どっかでヤッちゃおうって、計画してたの」

 ……え、えぇぇっ?!

 俺は凄く驚いて、摘んでいたポテトをぽとりと膝の上に落とした。
 そんな馬鹿な計画立てるほうも立てるほうだけど……しかも、俺達の地元のバーなんかで。

「んー、もちろん大声でそんな話してて、私らがほっとくワケ、ないじゃん? マスターがこっそりオーナー呼んで、あの子達、ぼこぼこにされてたんだけどね」
「…………」

 何と言っていいのか黙り込む。
 ここは、弘樹とマスターと、有紀サンに感謝しておくべきだろうか。

「でもね、あのバーって、地元の人間以外にも、サーフィンで来た子とかも寄ったりするでしょ? そこで、ツカサくんって結構話題になるらしいのよ。マスターが教えてくれたんだけどね。『ボニータって土産物屋に、ベッドで啼かせたくなるような可愛い子がいる』って」
「……」

 な、なんだ、その……その、ソレは。
 顔から火を噴きそうだった。
 ナンパされる時に、そう言って口説かれることは多々あったけど、それは直接言われるのと、間接的に、しかも妙齢の女性から言われるのとでは全然違って!

「……で、オーナー、それを聞いてまたキレたみたいなのよね」
「………」
「ツカサくん、よく店番サボって、外の通りで昼寝してたり、サーフィンいったりしてたでしょ? それも原因だと思うんだけどさ。だって、ウチの店、客殆ど来ないし。普通に店にいたら、ああいうガラの悪そうな子達がツカサくんの顔覚えるってあーんまり無いと思うしね」

 返す言葉も無い。
 まさに、まさに仰るとおりです。
 あの、昼間でもちょっとばかり薄暗い店にずっといて、真面目にバイトしていたらナンパされる事もなかったんだろう。
 多分。
 でも、でもでも。
 17歳の俺には、一日をあの店の中だけで過ごすなんて、刺激が無さ過ぎてダメなんだってば。

「……ま、詳しくは、またオーナーから話あると思うけど、さ」

 有紀さんはにこっと笑って、最後のポテトを食べる。

「アタシ達は、ずーっと友達だからね。アタシ、ツカサくんの事可愛いから気に入ってるし」

 麗しの有紀サンは、そう言って帰っていった。
 あんまり、無断で何時間も店を閉めておけない、と言って。

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