しばらくして僕の呼吸が整うと、りっちゃんが静かに指を抜いた。そして僕にティッシュの箱を差し出す。お互いにベッドの上に身を起こして、汚れたものをふき取ると、りっちゃんは僕のパジャマを整えてくれた。
いったあとはしばらく身体が過敏になっているから、あまり触れられると暴走して止まらなくなる。
それを知っているりっちゃんはしばらくの間僕を抱きしめたりはしない。
互いに並んでベッドの上に座り、しばらく無言でいた。
「リっちゃん、好きだよ」
ようやく身体が落ち着いてきて、僕はすり、とりっちゃんに身を寄せる。
りっちゃんは腕を伸ばして僕の肩を抱いてくれた。
「いい子だね、悠貴。……ありがとう」
「僕、声出さなかった?」
出さないように気を付けてはいるけど、最後の瞬間はどうしてもコントロールできなくなる。
「大丈夫だよ、ちょっとだけ。たぶん聞こえてないから」
りっちゃんは優しく答えて、僕のおでこにキスをしてくれた。
「………りっちゃんが僕を抱いてくれないのは、僕が声を我慢できなくなると思ってるから?」
ずっとそうではないかと思っていたことを、念のため聞いてみると、りっちゃんは少し驚いた顔をして、それから僕をぎゅっと抱きしめた。
「……そうじゃないよ。もちろん、声が聞こえたら困るのもあるけど、そうじゃない」
「じゃあ、どうして?」
暗い部屋の中で囁き声で交わす会話。
りっちゃんの気持ちが知りたい。
「………悠貴は、まだ高校生だろう」
「うん」
「だからだよ」
「じゃあ、僕が高校を卒業したら、してくれる?」
「分からない」
「どうして?」
普段はここまでしつこく聞いたりしない。
でも、今はまだ、お腹のあたりに感じていたりっちゃんの熱が残っているような気がしていた。それが僕を少しだけわがままにさせる。
「いつか、悠貴に他に好きな女の子ができた時に、困るだろう」
「困らないよ。それより、そんなのできないよ」
即答して、それからちょっと考えた。
「………りっちゃんが困る? りっちゃん、好きな女の人がいるの?」
どうしたことか、りっちゃんに彼女の影がみえたことはなかった。もちろんカッコいいから、バレンタインデーにチョコレートをたくさんもらっているのは知っているけれど、それでも「彼女」というような存在を感じたことはなかった。少なくとも、日本では。
「いないよ。悠貴が一番可愛い」
可愛い、は嬉しい。
いい子、と言ってくれるのも嬉しい。
それが好きでも愛してるでもなくても、りっちゃんの声が僕を大切だと語ってくれてるのがいつでも僕は分かるから、僕が言うのと同じ言葉はなくてもいい。
「じゃあ、どうして。りっちゃんの、それ、どうにかしたいと思わないの?」
りっちゃんに抱きしめられたまま、パジャマの上からりっちゃんの分身に軽く触れる。
そこは先ほどよりは治まったとはいえ、まだ平常時よりは硬さがあった。
リっちゃんは腰を引くでもなく、僕に触れさせたままにしていた。
「しばらく放っておけば、治まるから大丈夫だよ」
「でも、僕もりっちゃんにしてあげたいんだよ」
大好きなりっちゃん。
りっちゃんが僕に触れるのと同じだけ、それ以上、僕もりっちゃんに触れたい。
りっちゃんを見上げると、りっちゃんは本当に困った顔をした。
「そんなに可愛い目で見ないでくれ。どうしたらいいのか分からなくなるから」
もっと困ってよ。
リっちゃんの中も僕でいっぱいにしてよ。
りっちゃん。
大好きなんだ。
僕は少しだけりっちゃんに身体を寄せて、顎を持ち上げた。
唇が、りっちゃんの唇に触れる。
初めて唇で触れたりっちゃんの唇は、ふんわりと柔らかかった。
「………」
まさか僕からキスをされるとは思っていなかったりっちゃんが心底驚いた顔で僕を見る。
そう、僕らは唇でのキスをしたことがなかった。
僕から仕掛けてくるなんて、りっちゃんは夢にも思わなかったんだろう。
「りっちゃん。愛してる。………僕としようよ」
僕を抱きしめたまま固まってしまったリっちゃんを誘う。
したいんだ、りっちゃん。
りっちゃんの答えを求めて、じっとりっちゃんの目を見つめた。
りっちゃんの瞳の中に僕が映ってる。
背が伸びたくらいで、小学校の時からあまり変わらないようにも見える僕だけど。
ちゃんと大人になってるんだよ。だってもう高校2年生なんだから。
「…………まいったな」
やがて、りっちゃんが溜息と一緒にそう言って、目を伏せた。
けれど次に僕を見た時には、今までとは少し違う輝きをその目に宿らせていた。
「かなわない、悠貴には」
りっちゃんが、少し顔を傾けて僕の唇にキスをしてくれた。
さっき僕がしたのよりも、少し長く。
そして軽く唇を吸って、キスの音を立てる。
それにひどくドキッとした。
顔が急激に熱を持ってくるのが分かる。
………キスされるのって、なんか、すごい。
もっとすごいこといっぱいしてるのに。
顔にどんどん熱が集まり、どんどんドキドキが強くなっていった。
りっちゃんは柔らかく僕を抱きしめてくれた。
「………悠貴」
僕の名前を呼ぶ、りっちゃんの声。
好きだとも、愛してるとも言ってくれているわけではないけど。僕はその音の中に、いろんなりっちゃんの色を感じる。
「でもね。ここでしたら、絶対に悠貴、声でちゃうから」
僕を抱きしめたまま、りっちゃんは低く優しく囁いた。
「……っ!! それって」
思わずりっちゃんを見上げようとした僕を、りっちゃんはぎゅっと抱きしめたままで、より腕の力を強くした。
「悠貴が、もう少し大人になったら、そうしたらね」
りっちゃん。
もう少しって、どれくらい?
疑問はまだ胸の中にしまって、僕は唇に残る感覚にふわふわした幸せを感じたまま、りっちゃんと一緒に眠りについた。
Fin