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 中学は地元の公立へ通った。高校は電車で通う私立の男子校を選んだ。りっちゃんが通った高校だったからだ。
 僕がお兄ちゃんと同じ自転車で通える公立高校ではなく、りっちゃんが通った私立高校に行きたいと両親に話したとき、二人は驚いた顔をしたけれど、すぐに「やっぱりね」とう反応をした。
 僕はずっとりっちゃんを追いかけている。
 惜しいな。
 僕がもっともっと早く生まれていたら、りっちゃんと一緒に通えたのに。

「この間さ、駅で同じ中学だった子とたまたま会って」
 お昼休みにお弁当を広げて鈴木君がそう言った。
「その子、可愛い?」
 高田君が購買で買ってきたパンを齧りながら鈴木君を見る。鈴木君は少し考えてから曖昧に首を傾げた。
「すっごく可愛いってわけでもないけど……不細工でもない。普通、……より、少し可愛い、かな」
 言葉尻を濁した鈴木君の目が泳いだ。
「それで?」
 僕が先をうながすと、鈴木君がへへ、と笑って赤くなった。
「なんか、一緒にマック入って、けっこう話し込んじゃった」
「なになに、それって彼女が出来たってこと?」
 渡辺君が期待する顔で鈴木君の方へ身を乗り出す。鈴木君は顔を真っ赤にして首を振った。
「ち、ちげーよ。ただ、喋っただけ。トモダチ」
「えー、でもまた会う約束とか、したんじゃねーの?」
 渡辺君がにっと笑う。
「してないって……でもライン交換した」
「じゃあ、いつでも誘えるな」
「まあな」
 鈴木君は顔を赤くしたまま、嬉しそうに笑った。
「いいなあ、鈴木……。俺なんか、中学も男子校だったからそういうの無いし」
 高田君が心底羨ましそうに呟く。
「宮崎は?」
 ふいに水を向けられて、僕は口に入れていた玉子焼きを噛みながら高田君を見た。
「宮崎も、中学は共学だろ。中学一緒だった子と、会ったりとかしないの?」
「僕は、あんまり……。家の近くでも会わないかな」
 地元の中学はもちろん共学で女の子は多かったけれど、僕はモテるタイプではないし、女の子にそれほど興味があるわけでもない。隣の席になれば少しは話したけれど、その程度だ。女の子はいつも、背が高くてカッコよくて華やかなタイプか、とりわけ勉強やスポーツが出来るタイプに注目していた。僕はそのどれにも当てはまらないから、「気楽に世間話出来る程度のクラスメート」だった。いつでも。
「鈴木に彼女ができたら、いろいろ聞かせてもらおうっと」
 渡辺くんが空になった紙パックのジュースをつぶしながらワクワクしたように言って席を立った。表だっては言わないけれど、渡辺君もきっとモテるタイプだと思う。土日はバイトをしていると言っていたから、きっとバイト先で仲の良い女の子がいるのではないだろうかという気がしている。
「いいなあ」
 ぼやいて高田君はパンを齧り、僕はご飯を口に運んだ。
 別に彼女が欲しいとかは思わない。
 彼女はいらないけど、りっちゃんとはもっと一緒に居たい。
 ……本当にりっちゃんの犬になれたらいいのに。そうしたら、一緒に暮らせる。
 まあ、今もマンションの隣同士だから、半分くらいは一緒に住んでいるようなものかもしれないけど。
 でも、もっともっと一緒がいいんだよなあ。
 そんなことを考えながら、三人が昨日のテレビの話をするのを、ぼんやりと聞いていた。

 その日は掃除当番に当たっていて、掃除が終わってゴミを捨てに焼却炉へ行く途中、英語の田崎先生と会った。おじいちゃんの田崎先生は僕を見て「掃除当番か、偉いね」とニコニコ笑って話しかけて来てくれて、僕たちは廊下で少しの間立ち話をした。焼却炉にごみを捨てて空になったゴミ箱を持って帰ってくる途中、今度は古典の先生に「ちょっと手伝って」と声をかけられて資料を運ぶために準備室と視聴覚室を三往復した。そんなことをしているうちにすっかり遅くなってしまい、僕は早くも薄暗くなってきた廊下を一人歩いていた。
「宮崎」
 下駄箱の前で背後から声をかけられて振り向くと、背の高い人が鞄を肩に引っ掛けて僕に笑いかけていた。ネクタイに赤いラインが入っているから3年生だ。
「はい」
 僕は部活に入っていないから上級生と関わることが無い。何だろうと彼を見上げてると彼は「分からない?」と僕の目をのぞき込むように身をかがめて顔を近づけてきた。
「委員会で会うだろ。3年1組の青木」
「………ああ」
 そういえば、見た事がある気がする。委員会と言っても僕が所属するのは名前だけで、月に一度の委員会の会議に形だけ参加していれば、それで良いことになっている。
「アオキ先輩」
 委員会に出たからといって何かあるわけでもないから、僕はいつもぼんやりと椅子に腰かけているだけだった。だから他のメンバーの顔なんて、全く覚えていない。
「覚えてないって顔だ」
 そんな僕の様子に気付いたのか青木先輩は可笑しそうに笑った。
「今から帰るところだろ。駅まで一緒に帰ろう」
 青木先輩は快活にそういうと、僕を促してさっさと歩きだした。

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