exp 4

 りっちゃんのことを考えすぎて、僕は結局、明け方までまんじりともできなかった。窓の外が白み始めてからようやく少しうとうとしたところで、目覚まし時計が鳴って、しぶしぶ起き上がった。
 のろのろ制服を着て、詰め込むように味のしない朝ご飯を食べてぼんやりしたまま学校へ行くと、校門のところで肩を叩かれた。
「宮崎、おはよう」
 ふりかえると青木先輩が笑顔全開で立っていた。
「……おはようございます」
「うわ、なにその目。真っ赤。寝不足か?」
 僕と並んで歩きながら青木先輩が僕の顔を覗き込む。
 こくりと頷いて見せると、青木先輩は嬉しさを隠しきれない表情で囁いた。
「それって、俺のこと、考えてくれたからとか?」
「は?」
「いや、だってさ、昨日いきなりだっただろ! なんか驚かせたかなって……。まあいいや。宮崎、今日さ、昼飯一緒に食わない?」
「はぁ、……いいですけど」
「やったね! じゃあ、俺、4時間目終わったらお前のクラスに行くから! じゃあ、週番だから先に行くな。またな!」
 先輩はウキウキした弾んだ声でそういうと、踊り出しそうな足取りで校舎に向かって走って行った
 
「え、宮崎、先輩と付き合ってんの?!」
 鈴木君が素っ頓狂な声を上げ、クラス中が僕たちに注目した。
「………うん。昨日から」
 今日は一緒にお昼を食べられない、ということを鈴木君に伝え、話の流れから昨日のことを話すと、鈴木君は椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。
「え、ナニナニ、宮崎にカノジョができたの?!」
 渡辺君がすっ飛んでくる。
「違う、彼女じゃなくて、彼氏」
 僕が訂正すると、渡辺君があんぐりと口を開け、後からやってきた高田君も固まった。
「……まさか、宮崎がそっちだとは」
「だからAV見たとき、あんまり盛り上がってなかったんだ」
 妙に納得したように高田君がつぶやく。
「委員会一緒の先輩だって? その……宮崎は、その人のこと、ずっと好きだったのか?」
 鈴木君が言いにくそうに、でも溢れる興味を隠し切れずにそう聞いてきたから、僕は首を横に振った。
「ううん。顔も名前も知らなかった」
「はぁ?」
「付き合ってほしい、って言われて、つい、ありがとうございますって答えちゃったんだ」
 正直に伝えると、三人は目を丸くして穴があきそうなほど僕を見た。
「……あの、宮崎はそれでいいわけ?」
 理解し難いという顔で渡辺君が僕を見る。
「付き合う、っていうのがどういうものか分からないから、とりあえず……経験してみてもいいのかな、って」

 そう、夕べ僕は一晩中眠れない中で考えてみた。
 僕が好きなのは断然りっちゃんで、僕はなんどもりっちゃんに愛を告白している。
 僕の気持ちは伝わっていると思うし、りっちゃんも僕のことを「大切」だと言ってくれてはいるけれど、僕はもっと先に進みたい。
 ちゃんと、りっちゃんとセックスしたい。
 けれど僕がどれだけお誘いしてもりっちゃんが一向に最後までしてくれる気配もないのは、僕のことをまだまだ子供だと思っているからだ。お誘いすると「悠貴が大人になったらね」という曖昧な返答でスッとかわされてしまう。
 僕が、子供だから……。
 そんなことをを考えた。
 というかこれは、ずっと前から頭にあったんだけど。
 たしかに僕は他の同世代の高校生と比べて、いろいろなものが足りない。
 そしてりっちゃんと比べたら、圧倒的に子供だ。
 少しでも、りっちゃんに追い付きたい。もっといろいろ経験して、大人になって、そうして。

「宮崎って、どっか浮世離れしてるっていうか、不思議なところあったけど……面白いなあ」
 渡辺君が感心したように言って僕の机の脇に座り込んだ。
「相手が男ってのには、抵抗ないの?」
「うん、ないよ」
 即答すると、鈴木君が「あのさ」と言いにくそうに言う。
「……その……、宮崎って、男が好きなの?」
「……さあ、……わからないけど。……先輩が女の人だったとしても、僕、たぶん同じように答えてたと思う」
 僕の答えをどう受け取ったのか、鈴木君は「うーん」と言って考え込み、渡辺君は面白そうな顔で僕を見ていて、高田君は何とも言えない表情をして何も言わなかった。

 
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