師走 6

 多喜さんと気まずくなる前までは、時々休みの日に訪れて一緒にゲームをしたり食事をしたりした。久しぶりに訪れた多喜さんの家はあの頃とは変わらず、広くてきれいで、けれどいつも以上にきれいに感じるのはあの人が遊びに来てくれることを多喜さんが楽しみにしていたからなのだと気づくと胸が痛んだ。
 俺は自分の感情に蓋をするように多喜さんの家のテレビの前に座り込み、ゲーム機をセットしてソフトを入れた。強引に多喜さんを隣に座らせ、ビールの缶を握らせて乾杯をし、ビールを煽りながらゲームをした。場を盛り上げようと必要以上に俺は騒ぎ、どんどんビールを飲んだ。酒が入りコントローラーをうまく操作することができなくて俺はぼろ負けだった。頭の芯は冷えていて手がうまく動かないわりに思考は冴えていることに気づく。それは多喜さんも同じようで、俺が勧めるままにビールを飲んではいたけれど、酔っている風ではなく、けれど口元に淡い笑みを浮かべてゲームをやり続けた。
 やがて窓の外が白み始め、いい加減違うゲームに移ろうとか多喜さんに提案しようと思い始めた頃。
「……っ」
 小さな引きつった呼吸が聞こえた。
 多喜さんはコントローラーを握ったまま顔を伏せ、両手に握りしめられたコントローラーの上には小さな雫がポタポタと落ちているのが見えた。
「……ふ」
 声を殺して泣く多喜さんに、俺は何も言うことができず、衝動的に膝立ちになって多喜さんの頭を抱き寄せた。強く多喜さんの頭を自分の胸に押し当てると、多喜さんの手が俺の背中に回ってジャケットを握り締めた。
 抱きしめた多喜さんの身体は小さく震え、殺しきれない嗚咽が押し当てられたシャツとくちびるの隙間から漏れた。あんなに触れたいと思っていた多喜さんの身体を抱きしめて、髪を撫でた。俺があれほどまでに欲したものを捨てた、多喜さんの恋人だった人物の端正な顔を思い浮かべる。あの人は、いったい何を思ってこんな結論を出したのだろうか。そして、こんな風になるほど多喜さんはあの人が……好きなのだということに。俺は嫉妬よりも悲しさを感じていた。
 俺の胸で泣き続ける多喜さんを抱きしめながら、ふと、頭に一つの考えが生まれた。
 やめろという自分といいんじゃないだろうかという自分がいたけれど、今、自分の腕の中にある温かな体温と長年の想いは、俺の口をいとも簡単に開かせていた。
「多喜さん。……俺でよかったら……、多喜さんを慰めます」
 ぴくりと腕の中で多喜さん肩が震える。
 俺は多喜さんの肩を撫でて、言葉を重ねた。
「……あの人だと、思っていいですから」
 のろのろと顔を上げた多喜さんの目は赤く濡れていて、俺は顔を寄せてその愛しい目元にキスをした。

 最初は多喜さんが俺を抱いて、次は俺が多喜さんを抱いた。
 辻とは全然違うやり方で触れてくるてのひらと、愛撫。中を貫くその長さも硬さも、そして角度も違って、それは奇妙な違和感とともにいつもとは違う快感を俺に与えた。全部が俺の予想を裏切って、それはすべて快感につながり、俺は切なく身悶えて腰を反らせた。俺の中を貫きながら前を愛撫する手に、俺はあられもない声を上げて達し、中にいる多喜さんを締め付けて多喜さんも俺の中で果てた。多喜さんの中は驚くほど熱くうねり、俺を誘い込むように動いて、そして抑えきれない声を聞かせてくれた。
 ベッドをきしませながら俺は多喜さんの腰を強く掴んで中を穿ち、シーツを握り締めて悶える多喜さんの手を握り締めた。2回では終わることができなくて、ベッドサイドの引き出しに入っていたゴムが切れても、まだ止めることができなかった。ローションとお互いが出した精液でドロドロになりながら、日が昇って明るくなった部屋の中で何度も交わりあった。いつしか多喜さんが喘ぐように俺を「一彰」と呼びはじめ、その声が、響きが耳に突き刺さったけれど、俺は訂正することも行為を止めることもできなかった。
 もう指一本動かすのも億劫だというくらいまで疲れ果てたところで、俺と多喜さんは重なりあうようにして眠りに落ちた。

 目が覚めた時はすでに薄暗くなっていて、多喜さんは俺の隣で丸くなって眠っていた。
 夕暮れから夜へと色を変え始めた空が窓から見え、俺はそろそろと身体を起こした。腰がだるくて、何度も多喜さんを受け入れた後孔もヒリヒリし、酒飲み過ぎで頭も痛かった。まだ起きる気配のない多喜さんの寝顔を少し眺めてからベッドを降り、服を身に着けた。

 多喜さんの部屋を簡単に片づけて自宅に戻ったときは、すでにとっぷりと日が暮れていた。時間は決めていないが、今日は辻の家へ行く約束をしていた。
 自宅の狭いアパートに戻り、電気もつけずに床に座り込む。スマホには辻からいくつかの着信とメールが届いていた。
 しばらくその表示を眺めていたけれど、俺は辻に電話をすることもメールを打つこともできなかった。
 あの広い家に一人きりでいる辻を思い、スマホを握り締めたまま動くことができなかった。

 睦月