大晦日 2

 玄関に立ったままだった俺の身体を中に押し込むようにして辻は後ろ手にドアを閉めた。よろめいた俺の身体はあっけなく廊下に尻もちをついて、立ち上がる気力も無く俺はそのまま座り込んでいた。辻を再び見上げることもできずに床に視線を落とす。
 時が静止したかのような静寂が続いたのはどれくらいの間だっただろうか。
 ふいに空気が動いたような気がしたと思った瞬間、俺は辻に押し倒され、背中と後頭部を床に打ち付けて痛みにうめき声を上げた。
 開けっ放しのカーテンの向こうから街灯の灯りだけが入り込む部屋の中で、辻は無言のまま強引に俺の唇をふさいだ。噛みつくようにキスをされて、思わず辻の胸を押し返そうとした両手は簡単に掴まれ床に縫い留められた。抵抗を奪った辻は、俺の首筋に顔を埋めるときつくそこを吸い上げて噛みついてきた。
「……っ、痛い……っ」
 甘噛みとは言えないその強さに思わず声が出たが、辻はそこで力を緩めることなく、シャツの裾をめくりあげ、隙間から手を差し込んで肌に触れた。氷のように冷たい手の温度に身体が竦む。
「やめろ、辻っ」
 辻の身体を押し返そうとするのに、俺より身長も筋肉量も上回る辻の身体はびくともせず、性急な動きで俺の身体を撫でまわし、胸の尖りを摘み上げた。冷たい手で触れられただけで鳥肌が立っているうえに敏感な場所をいきなり強い力で刺激され、反射的に逃げようと床の上で身体を身じろがせると、辻は咎めるように摘まんだその部分を遠慮のない力で捻りあげた。
「い、た……っ、痛いっ、辻っ!」
 シャツの中で動き回る辻の手を止めようと、服の上から辻の手を掴んだが薄い布の下にある辻の手は俺の抵抗をあざ笑うかのようにより強い力で敏感な粒を指先で潰した。今まで体験したことの無い鋭い痛みに一瞬声が出ず、俺は辻の下で身体を硬直させた。
 辻から夏の庭で告白をされてから半年あまり。
 なんども身体を重ねたけれど、それは終始優しく愛情に満ちたもので、こんな手酷い扱いを受けたことはなかった。大きな辻のものを受け入れるのはいつだって苦しかったが、それでも辻の愛撫はつねに優しく俺を感じさせるために動いていて、痛みとは無縁だった。
 痛みのあまり目に涙が溜まり視界が揺れた。一瞬抵抗を止めた隙に辻は手をシャツの下から抜き取ると、無言のままベルトに手をかけ、スラックスの前をくつろげた。そのまま下着と一緒に膝まで引き下ろされ、俺の身体は寒さに震えた。
 辻の顔を怖くて見ることができいまま、再び逃がれるために辻の下から抜け出そうとしたが、辻の手がいきなり俺の中心を握りこんで動きを完全に封じられてしまった。寒さと先ほどの痛みで縮みあがったままのそこを掴む辻の手は、やっぱり恐ろしく冷たくて俺は自然と自らの身体を守るように身体を丸め、それでも辻の手からに逃れることができなかった。辻の冷たいままの手は俺のそこを数回扱いたが全く反応を見せないと分かるとあっさりそこから手を引き、いとも簡単に俺の身体をひっくり返した。尻を覆ったコートをまくり上げて冷気に満ちる暗い部屋の中でそこだけをさらけ出させる。膝のあたりで絡みつく衣類のせいで満足に抵抗も出来ない俺の身体を、辻が無言のまま見下ろしているのが分かった。カチャリとベルトの金具を外す金属音が響き、次いでジッパーを下す音がした。
 辻が本気でここでこのまましようとしていることが分かり、俺は思わず後ろを振り返った。
 ダウンを着たまま、まるでトイレで用を足すかのように前だけを寛げた辻が俺を見下ろす。
 俺を見下ろす辻と、視線が絡んだ。
 さっきまでは能面のように表情をそぎ落とした顔をしていたのに、窓から入り込む街灯の灯りに映し出された辻の瞳は酷く悲しげで、俺が辻を深く傷つけたことを雄弁に物語っていた。

 ローションで慣らしもせずに辻は強引に俺の中に押し入り、むちゃくちゃに腰を振った。
 激しい痛みと抵抗を感じたそこは、すぐに切れて出血し、その血の滑りを借りてやがてスムーズに動き始めた。
 俺の中を容赦なく突き上げるその動きと激しさに、いままで辻がどれだけ俺を思い、大切に扱ってくれていたのかということに初めて気づいた。
 痛みと突き上げられる衝撃に漏れる悲鳴じみた声は、抑えることがまったくできなかった。床の上に這いつくばって受け入れる辻の剛直にうめき声を上げながら、さっき一瞬だけ見た辻のひどく傷ついた瞳が何度も脳裏を過った。
 やがて繰り返し与えられる痛みに慣れたころ、唐突に気づいた。
 辻は、俺よりもっともっと、痛いのだということに。
 それは今日初めて与えられたのではなく、俺と付き合い初めてから今のこの瞬間も、ずっと痛みを抱えていたのだということを。

 睦月